お茶をください。 喉のつかえが取れないのです。

昨日から、携帯は何の声も発さない。 当たり前だ、電源はあの電話のあと切ったままだから。
お互いにイライラしていたんだと思う。
相手に対してではなくて、仕事であったり、人間関係であったり。
もしかしたら 帰りにガムを踏んづけたとか、そんな些末なことだったかも知れない。
とにかくわたしも、彼もなんだかかさかさしたこころだったのだ。
一緒にいようねと決めたばかりの頃は、例えどんなにイライラしていても彼との
毎夜の電話さえすれば翌日笑顔で仕事ができた。
でもいつしか。
電話は毎晩こなくなり、わたしもそれを責めなくなった。
それが信頼という名前をしたものであれば良かったけれどそうではなくて。
電話がなければひとり、彼に様々な疑惑をかけてばかみたいに涙したりしている
のだ。
今更何を言えば。
だって、なぜあんなに彼を責めたのかももう思い出せない。
謝るのはいつも彼。
なんで、とかそんなことよりわたしをあやすように。
そうして段々と、わたしと彼の間を流れる川は深く広く、流れは速くなった。
時々これを埋めなくてはと、小石を投げ込むみたいに優しいことを言ってはみる
のだけど、速さを増した流れには焼け石に水で。
携帯に手を伸ばす。
ふと目に入ったのは、彼と付き合いだしてから始めた日記帳。
1冊目の表紙はもう大分日に焼けて、過ぎた時間の長さを思い知らされた。
5冊目に入ってから、各日付のページには数行だけ。
1冊目の頃は、日付のページ では足りなくて、新たな紙を付け足してまであったはずなのに。
電源の切れたままの携帯を片手にページを繰る。
数えきれないほど綴られたすきの2文字はだいすきの4文字へ、そっと移り変り
また繰り返されていた。
そしていつの間にか、姿を消した。
携帯の電源を入れる。
さあ今すぐ電話帳を開いて彼に。
どこが嫌だとか何が嫌いだとか全部を伝えようそして。
その倍以上の時間を使って伝えるのだ。
すきでもだいすきでもなく、あなたをあいしてる、と。
麻痺してしまった幸せを。
忘れてしまった幸せを。
今からでもあなたに返したい急がなければいけない。
彼の番号を開いて、通話ボタンに指を置く。
途端鳴り響く着信音。
電話の主は。
「おれ、だけど。」
うん。
「電源切ってただろ。」
ごめん。
「言いたいこと、あったのにさ。全然つながんねーし。」
あたしもあるよ。 言いたいこと。
因みにね、5文字。
「あ、俺も。いちにい…うん、5文字」
遅かったかもしれない。
真っ先に浮かんだ5文字の言葉は別れのさようならだけだった。
だってさっきから言葉尻がなんだか尖っている気がするから。
「結婚しよう。」
5文字じゃないじゃんと笑ったら、漢字だったら5文字だろと彼も笑った。
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((すっきりしたどころか、ますますなんだか喉の奥にあついものが。頬を伝う涙がそれだったのかも))
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