整理された記憶の内のひとつでしかない。
思い出なんてそんなものだと。
ここにいる。
昔付き合った女に言われたことがある。
「浜田といると、疲れる。」
幼い恋だったんだと思う。
笑顔が見たくて花を贈った。
驚かせたくて突然のプレゼントをした。
困った顔が見たくて急に家のドアをノックした。
そして最後に。
彼女は口元だけで微笑んで言ったんだ。
俺の年齢が実際問題彼女より下だったというのもあっただろうけど。
それより何より幼かった。
こころが絶対的に、幼かったんだと思う。
すきだよと伝えることはその4文字に含まれる気持ちも何もかもも相手にあげることだ。
4文字に全てを無理やりにでも詰め込んで、ただ差し出す。
それが相手にとって迷惑だとか困惑だとかそんな感情を引き起こすものであっても。
とりあえずその4文字で俺はすっとするのだ。
負なのか正なのかは解らない。
でも魔法と言ってもおかしくない力がそこにはある。
それに気がついたのは、今さっき。
「すきだ。」
涙を指ですくいあげると、眉間に皺を寄せて泉が視線をよこした。
何か言えと目が訴えている。
なんでこんなに気持ちがうわついているんだろう。
足をぐっと踏ん張っていないとどこかに飛んでいきそうだ。
「言わせたかったんだ。」
「…悪趣味おやじ。」
後ろを振り向けばいつも泉が見えた。
節目節目、いいときもわるいときも、泉はこちらを見ていた。
時には憎しみをこめた眼差しで。
別のときには心底嬉しそうな顔をして。
けれど決して俺との距離を縮めようとはしなかった。
一定の距離を持って、ずっと追いかけてきたみたいだった。
そして、野球を捨てたとき。
泉の目から全ての感情が消えうせた、んだ。たぶん。
ずっと言いたかった。
泉にいつか、大事な言葉を伝えたかった。
けれど泉が持っていた、俺に対する崇拝に近い尊敬はそれを許してくれなかった。
願うものであるように、望むものであるように。
強い力に言葉は鍵つきの箱にしまわれて、鍵はどこかに捨ててしまった。
何より、幻滅なんてされたらおしまい。
それしかなかった。
ずるくてもいい。
きみを罠に。巧みな罠に。
そうしてきみの壁を残らず崩してしまったあとで。
塗り固めることをさせる前に。
抱きしめて甘く閉じ込める。
「だいすきだよ。」
「いずみ。」
-------------------------------
((おもいかせがはずれたきがした。))
→extra